平成19年度独立行政法人福祉医療機構 「長寿・子育て・障害者基金」助成事業 “パソコンによるニートと高齢者の交流事業”

◎この助成事業は、現在社会問題化しているニート(若年無業者)の若者と情報弱者になっている高齢者に対してITを活用して交流してもらい、ニートの若者には働く意義と意欲を、高齢者には介護予防と情報格差解消を目的にした事業です。
◎事業内容は、ニートとジョブコーチ(ニートのサポーター)が、ディサービスセンターで高齢者にパソコンのセミナーを開催します。そのセミナーで興味の湧いた高齢者に、ニートとジョブコーチが協力して高齢者に個人(グループ)指導をしていくものです。

事業終了にあたって」

約1年間にわたり「パソコンによるニートと高齢者の交流事業」を行ってきました。
アンケートの集約結果をデータにまとめてみますと、色々なことが分ってきました。

≪受講された高齢者の方≫に関しては、まず【受講者数】に関して重複受講した方を含めると128名に達しました。【性別】では、男性20%女性80%と圧倒的に女性が多かったです。【年齢】では、60歳代1% 70歳代29% 80歳代61% 90歳代9%と80歳代が最も多く、続いて70歳代でした。最高齢は94歳の女性の方でした。【講座内容】については、「理解できた」と「少し理解できた」を合わせると89%で、ほとんどの方が理解をされたようです。【講習時間】も72%が「ちょうど良い」で、「短かった」も23%とパソコンに興味を示して頂けたことがうかがえます。【ニートとジョブコーチの指導】に対しては、「とても分り易かった」61%「分り易かった」36%とほとんどの受講者に満足をして頂けたようです。【次回もしこのようなパソコン教室があれば参加したいか】の問いに対しては、83%が「参加したい」と回答され、今回の事業の社会貢献性に一定の評価を頂けたようです。

≪ニート≫に関しては、【年齢】は、20歳代から50歳代の方が参加し、【性別】は、男性83%女性17%と男性が多かったです。【職歴】は、「正社員」33%「パート・アルバイト」33%「就労経験なし」も33%でした。【今回の事業に対する不安なこと】の問いに対しては、「対人関係・コミュニケーション」50%、「パソコン技術」50%と「対人関係への不安」を挙げる人が顕著だったことは少なからず考えさせられました。

≪ジョブコーチ≫に関しては、【年齢】は、50歳代から80歳代の方が参加されました。【性別】は、男性83%女性17%とこちらも男性が多かったです。【退職前の業種】は、「卸・小売」「教育・学習支援」「建設業」「製造業」が挙げられ、【退職前の職種】は、「営業」「事務」「管理職」をされていました。【今回の事業に対する不安なこと】の問いに対しては、「対人関係・コミュニケーション」33%、「パソコン技術」17%「時間」17%と「時間的余裕への懸念」を挙げられる方もいました。

次に、【指導者側から見た受講者の理解度】は、「理解できた」64%「少し理解できた」31%と大半の方には概ね理解して頂けたという結果が出ました。【指導者側から見た講習時間】は、「ちょうど良い」84%【受講者の反応】は、「楽しそうだった」70%と受講者にはほぼ満足して頂けたようです。【指導は上手くできましたか】の問いには、「上手くできた」19%「まあまあできた」72%【指導をしていて、困ったことはありましたか】は、「余りなかった」49%「なかった」39%と、指導者側も試行錯誤を繰り返しながら、回を重ねるに従い経験を深め、自信をつけていったように感じられます。

以上のデータを踏まえて総括します。
まず≪ニート≫に関しては、あるニートの方が感想文で、『私は過去の出来事から、自信を無くし、人付き合いが苦手になりました。社会に出て行くことに対しても、人の目や評価を気にするあまり、失敗を恐れ、なかなか動けない状態です。そんな自分には、今回の交流事業への参加は挑戦であったのですが、結果として、去年にはなかった充実感を感じながら、生活を送ることができました。(中略)私の普段の生活ではなかなか得ることのできない経験ができたことは、視野が狭くなり社会に出ることを怖がっている今の自分にとって、非常に大きかったように思います。また、自信を無くしていた自分が、交流事業に休むことなく参加できたことは、私にも他の方のように何かできることがあるのでは、と希望を感じさせてくれることになりました。今回の経験をきっかけにして、社会と接する機会を増やし、将来につなげていければ、と考えています。・・・』と書かれています。
この感想文からもうかがえるように、ニートの方にとって、この事業に参加し一定の経験と自信をつけてもらえたことは、貴重な社会体験の場となりました。ニートの方がこの事業を通じて、自分自身の糧とし、今後、明るく前向きに次のステップに挑戦しようという意欲に繋がったならば、それは今回の事業の得がたい成果ではないかと思います。

≪ジョブコーチ≫に関しては、これもあるジョブコーチの方が感想文で、『ニートといわれる人についての認識は低く、若くて、才能もあるのにブラブラ遊んでいる、なにもヤル気のない若者?という程度にしか、考えていませんでした。事業初日にニートの皆さんとお会いして、「この人たちはサボってるのじゃない」と痛いほど感じました。(中略)人との付き合いが上手く行かない理由は、あまりにも優しい心根のため、気配りに疲れてしまうためかな、半年あまり彼らとつきあってきてそのように思いました。(中略)ここでニートの皆さんの本領発揮というのでしょうか、実に気長にパソコンの指導を高齢者にします。そして教える方も習うひとも明るい。・・・』と書かれています。この方の感想文のように、ニートと呼ばれる方々に対しての認識がまだまだ世間では浅いのが実情です。その中で一人でも多くの方に、現状を知ってもらえたことは大変有意義なことだったと思われます。

≪受講者≫に関しては、これもあるジョブコーチの方の感想を引用させていただきます。『高齢者にパソコン指導する事業?それは意味が分からないことでした。たいていの高齢者はパソコンの利便性を理解してくれませんし、今更と考えます。でも人間いくつになっても知識欲はあるようで、時代の先端に自分がいると思えるパソコンの操作をするということに興味をもってくれました。僕など、養老院に入っている痴呆の入った人になど、どうせなんの役にもたたないパソコンでしょう?と思ったのですが・・・』。これは、人間の知識欲・向上心や好奇心はいくつになっても衰えないという普遍性を立証しています。文明の利器であるパソコン(IT)に触れてもらうことにより、「情報格差の解消」という現実の社会的課題にも、微力ながら貢献できたならば主催者として望外の喜びです。

また、施設の介護職員の方から、『普段は居室内にこもりがちな方がこうして積極的に自ら参加されたことはとても良かったと思います。また、今回のことがきっかけで、パソコンに目覚めた利用者さんもみえました。「息子にパソコンを買ってもらうわ!」と張り切ってみえ、これで終わるのはもったいないから私たち職員にも教えてね、とやる気満々です。・・・』という感想文を頂きました。今回の事業が、高齢者を居室内から外へ出る切っ掛け作りになったことは意義深いことで、若いニートの引きこもり者に限らず全ての方々の交流の場になったことは画期的なことだと考えています。

しかし、事業を実施する経緯の中で感じられた、≪様々な問題点≫≪今後の課題≫も少なくありませんでした。代表的な点を抽出しておきたいと思います。

1.デイサービスセンターのパソコン講習について。前半2回は全体講習会を行い、そこで興味が湧いた受講者を対象として、引き続き後半4回分の個人指導を行う計画でしたが、後半も参加希望する受講者が予想外に多く、「個人指導」から「グループ指導」に切り替えざるを得ませんでした。指導スタッフの配置原案で人員を限定していたため、対応に苦慮しましたが、これはある意味嬉しい誤算でした。次の機会では、指導スタッフの人員やバックアップ体制をより充実させて実施したいと思います。
2.一箇所の会場につき講習期間を3か月と設定していましたが、「もっと続けて・・・」「ずーとやって欲しい・・・」という意見が多く、短期間での講習実施の難しさを痛感しました。施設側が備品として保有するパソコンを、一台でも利用者の自習用として提供されれば、講習会での学習と有機的な関係が保てるのではないかと思いました。
3.上記に関連して、日程の関係上やや消化不良の形で講習を終結せざるを得ず、講習後のフォローも十分できず残念です。せっかく興味を持ってもらったパソコン(IT)と今後どう向き合っていっていただくのか?課題は継続していきます。次の機会では複数年計画の事業構想を練りたいと思います。
4.ニートの人達は、うつ病等の精神的疾患を持っている方が多く、期の途中で病が悪化するなどの理由によりリタイアされた方が続出しました。結果として、残されたスタッフに過重な負担を強いることになりました。ニートの予備人員を確保しておく等の方策が必要でした。同様のケースは「ジョブコーチ(脳卒中の障害者)」側にも若干見受けられました。

≪今回の事業に対しての評価≫をあるジョブコーチの方がこう述べています。
『今回の事業は、高齢者にパソコンを習得できるように指導するということではなく、大正・昭和そして平成という時間も、また高齢者・障害という人の特性も飛び越える手段としてパソコンを利用した事業なのかなと理解しました。・・・』

パソコンは、単なる「生活のための道具」です。それを使いこなすのは私達「人」です。上手く使えるか、使えないかはその「人」次第。今回の助成事業で上手く使えたかどうかは、参加された一人ひとりの判断に委ねたいと思います。

最後になりましたが、貴重な時間を割いてこの事業にご尽力をいただいたニート・ジョブコーチの皆様、受講していただいた多くの高齢者の皆様、会場をご提供いただくなど種々ご協力くださった施設関係者の皆様その他関係各位に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

シュヨーネット 代表 河島正幸


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朝日新聞・朝刊・平成19年5月26日(土)
6月には独立行政法人福祉医療機構から助成を受け、ニートと高齢者、脳卒中の後遺症が残る人らに2人一組で指導役になってもらい、デイサービスセンターの入所者にパソコン指導をする交流事業も予定している。
中日新聞・朝刊・平成19年12月30日(日)
昭和区デイサービスセンターで開いているニートと高齢者向けの教室(無償)は、本年度の独立行政法人福祉医療機構の助成事業として認められた。

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